検証:ロボットによるお客様ご案内サポート@羽田空港

ロボットは空港でのお客様案内として期待に応える価値を実現することができるのでしょうか。Haneda Robotics Labの試みとして2019年4月22日〜24日に行われた、遠隔操作ロボットJET の実証の様子を見てきました。一部ですが観察の結果と、そこから見えたことをまとめます。

!!注意!! 以下の考察は今回観察できた範囲での実績に限ったものであり、今回の実証期間全ての結果を包含するものではありません。


目的の確認

今回ロボットが担う役割である、“空港におけるお客様案内業務”とは何なのでしょうか?

JALのプレスリリースによると「親しみやすい外見とボイスチェンジャーを使った音声で、空港スタッフに代わりお客さまをご案内」とあったので、具体的にどんなことをご案内するのか探るべく、JALのウェブサイトで確認してみました。

ご搭乗サポート
お体の不自由なお客さまや、赤ちゃんをお連れのお客さまなどお手伝いが必要なお客さまのご搭乗をサポートします。また、ペットや楽器をお預けいただく際のお手続きについてもご案内します。
日本航空 webサイト 国内線> ご搭乗サポート https://www.jal.co.jp/dom/support/

飛行機に乗るお手伝いが必要な方向けに、どこでどんなサポートが受けられるのか、お問い合わせにお答えしたり、必要に応じて同伴し、お手続きや空港内の移動の際の困り毎を解決すること、と理解。後者はロボットには荷が重すぎることと「案内」というワードから、今回の導入の目的は主にロボットを通じて搭乗フロアでお客様からのお問い合わせへ回答すること、を意図していると推測し、その達成度合いを検証してみることにしました。


検証方法

簡易的なエスノグラフィーを行いました。

  • 日時:2019年4月23日(火) 14:00〜15:00の1時間(デモ実施時間)
  • 場所:羽田空港国内線第一旅客ターミナル2階 南ウィングJALスマイルサポートカウンター前
  • 方法:写真記録、インタラクション行動観察記録
  • 当該日時の運行状況:ほぼ平常運行
  • ターミナル混雑状況:ソファーは9割方埋まっているが、ターミナルロビーは人の通行は途切れないものの比較的閑散(写真参照)

テーマ

ロボットは搭乗フロアでお客様からのお問い合わせに回答できていたのか
  • お問い合わせ=フロアのお客様が質問する意図を持ってロボットと対話
  • 雑談=質問以外の意図でロボットとお客様が複数回話者を変えながら、会話を続ける
  • 挨拶=「こんにちは〜」「いってらっしゃいませ〜」「ありがとう」のように、ロボットとお客様の対話が一方的、または一往復のみで終わる対話
  • 遠巻きに接近=ロボットと直接対話や関わりをしないが、一定の距離から見守っている

    と定義し、そのような関わりが発生した数をカウント、分析しました。

(雑談の中で「このロボット、質問に答えることもできるんです」と係員に促されてお客様が発した質問は、お問い合わせにカウントしていません)


結果

< 2019年4月23日 14~15時のロボットとお客様の関わり発生数>

 組数(人数)
問い合わせ0(0) 0%
興味本位の雑談11(22) 61%
挨拶4(6) 22%
遠巻きに接近3(5) 17%
合計18(33)

  • ロボットに質問した問い合わせはゼロ
  • ロボット自体に興味を持ったり、係員やロボットの呼びかけに答える形の雑談が約6割
  • ロボットに声をかけられても、積極的に関わろうとしない場合も4割ほど
(観察期間中) 搭乗フロアでお客様からのお問い合わせにロボットが回答する実績は見られなかった

考察

この結果をもたらした理由がどの辺にありそうか、その他の観察結果を踏まえて分析してみました。

そもそも当該の時間帯に付近に、問い合わせを必要としたお客様がいなかった可能性を検証します

[観察結果]

期間中、

  • お問い合わせ意図を持って寄ってこられたお客様は2組いた
  • どちらもロボットの存在を無視し、真っ直ぐ人間にアプローチして人間に問い合わせた

→お問い合わせを必要としたお客様はロボットの存在を無視、または対話の対象としてロボットを選択しなかったことが判ります

このことから、次の仮説を検証することにします。
⇒質問を問い合わせる対象としてロボットを認識していない(仮説2) または
⇒ロボットには話しかけにくい(仮説3)へ

ロボットの役割、ケイパビリティ(能力)がお客様に正しく理解されていなかったため、お客様からの問い合わせが発生しなかった可能性を検証します

当日、付近にいたお客様がプレスリリース等でロボットの役割を予め認識していた可能性は低いと考えます。また空港という場所の特性上、1人のお客様の利用頻度は最多でも週に1度程度、大多数のお客様はめったに利用しない事を考慮すると、利用環境の演出デザインによって初対面のお客様にもロボットの役割とケイパビリティ(能力)を伝えることに成功しているか、がロボットと関わる意欲に大きく影響すると考えられます。

ここでは以下の3つの観点で考察します。

  • 設置デザイン

ロボットが置かれていた環境から、お客様にとってロボットの役割が明確であったか。

  • JALスマイルサポートカウンター前で活動
  • 対応カウンターは間口の奥に引っ込んだところにあるのに対し、ロボットはターミナルロビーの広い通路側で活動しており、窓口とロボットが同じ意味を持って活動しているようには見えない
  • ロボットを取り囲むように立っている関係者の数が多く、直接近づいてはいけない印象

→ロボットがお客様からのお問い合わせへ回答するために存在している、ということを設置環境の見た目から判断するのは、やや難しかったと考えられます。

  • 対話デザイン

ロボット自身が話す内容や振る舞いから、お客様はロボットの役割・能力を推定できたか

ロボットがランダムに話しかけていたのはこちら

  • 「こんにちは〜」
  • 「僕はJET(ジェット)といいます」
  • 「何かお困りのことがあればご案内いたします」
  • 「保安検査場はこちらです」
  • 「気をつけていってらっしゃい」
  • 「お仕事頑張ってください」
  • 「お疲れ様です」←航空会社職員に対して

  • 自ら役割を告げている
  • 呼びかけが自然な一方で、役割を不明確にする発話が多い
  • どこまでどんなことが出来るのかお客様に伝わる内容に乏しい

→ロボットが呼びかける内容だけでは、役割や問い合わせへの回答能力を推定するのは難しかったと考えられます

  • 振る舞いデザイン

すぐ隣で地上職員が、出発便搭乗の最終案内のために声を張り上げている一方、ロボットが全く別のお客様に手を振っているシーンでは、ロボットの目的が”案内以外のところにある(人々を楽しませるマスコット)”ような印象を与えていました

→案内する役割を果たす存在として、他者から認知できる行動が少なく、また相反する行動によって期待値を下げている可能性が考えられます

そもそも不慣れな他人に話しかけるのは緊張するもの。それが、あまり関わった経験のないロボットであればなおさらです。そんな、ロボットへの躊躇からお客様からの問い合わせが発生しなかった可能性を検証してみます。

、、、しかし、時間の制約から直接のお客様インタビューが実施できず、躊躇の実体はあいにく把握できていません。

では、お客様が自ら話しかけやすい状況とは?どのような条件なのでしょうか?当日の観察データからは、『お子様連れ』『2人以上のお客様』であるほど、自発的に話しかけてくる傾向が読み取れましたが、実際にこれらの要因がロボットへの話しかけやすさに影響するかどうかを判断するためには、相手が人間の場合とロボットの場合で違いがあるかどうか検証する必要があります。


結論

今回観察した限りでは

設置環境・対話・振る舞い等のデザインに課題がみられ、ロボット導入がお客様案内業務の品質向上に役立っている様子は見られなかった 
[解説] ロボットは空港でのお客様案内として期待に応える価値を実現することができるのか、残念ながら今回の観察ではお客様ご案内の実績そのものが発生しなかったため、判断できませんでした。

実績が発生しない理由は、ロボットの性能如何に関わらず、体験そのもののデザイン設計(環境・対話・振る舞い)側に課題があり、人とロボットとの関わりが生まれにくかったことにあると推測され、実証方法の改善の余地が感じられました。

この結果を「ロボットは役立たない」と結論づけるのは、早計に過ぎるでしょう。ロボットの役割を含めた、トータルでのエクスペリエンスデザインの不足に大きな課題があることが、あらためて浮き彫りになった実証でした。


補記

JET(CAIBA)のお客様対話能力は高く、環境やインタラクションデザインの工夫によっては、高いサービス能力を発揮することも出来るのではないかと感じています。

一方で、現状の環境・対話・振る舞いのデザインを現状のままに実導入を図る場合、ロボットによるお客様案内が空港のお客様体験を向上する効果は、おもてなしの一環として人を楽しませるエンターテイメント領域にとどまり、ご案内サービスの質の向上には繋がらない可能性を、今回の結果は示唆しているとも言えるかもしれません。

細かなデータ、スケッチは省きました。ご興味ある方はこちらまで。

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